風街オデッセイ2021、松本隆の作詞活動50周年を祝った奇跡の二日間

ライブレポート | 2021.12.28 16:00

~松本 隆 作詞活動50周年記念 オフィシャル・プロジェクト!~ 風街オデッセイ2021
2021年11月5日(金)6日(金) 日本武道館

松本隆の作詞活動50周年を記念するイベント『風街オデッセイ』が、11月5日(金)、6日(土)の2日間に渡って日本武道館で開催された。
日本を代表する作詞家、松本隆の創作の歩みを、2日間かけて豪華アーティストたちの競演で見せていくこの公演は、1999年、30周年記念に渋谷ON AIR EASTで開催された「風街ミーティング」以来、5年おきに開催されてきたイベントの集大成的な内容であり、祝祭の意味合いが強いコンサートとなった。
2日間でアーティストの被りはほとんどない。両日出演したのは、松本と細野晴臣、鈴木茂による「はっぴいえんど」と、林立夫、鈴木慶一ら。バックをつとめるのは、現役最強の凄腕プレイヤーで構成された「風街ばんど」で、音楽監督は井上鑑。松本曰く、1日目は『風街図鑑』(松本作品を集めたCD-BOX)の風編、2日目は街編といった趣向で、風編は文字通り、ヒット作詞家・松本隆の軌跡をたどる有名曲満載のステージとなった。

1日目、ざわつく武道館の館内には、近藤真彦「スニーカーぶる~す」、アポジー&ペリジーの「月世界旅行」など、大ヒット曲からマニアックなナンバーまで幅広い選曲の松本作品が流れている。場内アナウンスの後、中村雅俊の「あゝ青春」が響き渡ると、客電が落ちる。オープニングをつとめたのは、はっぴいえんど時代からの盟友・鈴木茂。ドラムで参加した林立夫は、今年、鈴木と小原礼、松任谷正隆で「SKYE」を結成し、アルバム・デビューを果たしたばかり。元は鈴木がはっぴいえんど加入前、林、小原と高校生時代に組んでいたアマチュア・バンドである。名曲「砂の女」を皮切りに、松本の詞世界を象徴するキーワード的楽曲「微熱少年」を披露。衰えぬ超絶ギタープレイで酔わせた後も、多くの人々に愛された松本作品が、年代順に披露されていく。

鈴木 茂

林 立夫

はっぴいえんどを解散後、作詞家としてひとり立ちした松本の最初のヒット曲である、チューリップの「夏色のおもいで」を曽我部恵一が歌うと、ステージ中央部が開き、階段を上ってアグネス・チャンが登場。矢野顕子にも影響を与えたという、ハネるようなヴォーカルは健在で、「想い出の散歩道」を歌い終えると、「松本先生、50周年本当におめでとうございます!」と挨拶。「ポケットいっぱいの秘密」の「あ・ぐ・ね・す」の縦読みに触れ、「初めて書いた歌謡曲でそういうこと、する?(笑)粋ですよね!」と語り「ポケットいっぱいの秘密」を軽やかに歌った。

曽我部恵一

アグネス・チャン

続いてはグランドピアノとともに、風街ワールドの妖精・太田裕美の登場だ。デビュー曲「雨だれ」を披露すると「松本さんは私の歌で、いろんな実験をしたと仰ってます。すべて楽しい実験の想い出です」と語り、その最大の成果である「木綿のハンカチーフ」へ。早くも名曲が目白押し状態だが、次なるアーティストはブルーのドレスに身をまとった森口博子。77年に三木聖子に書いた「三枚の写真」と、78年に桜田淳子に提供した「リップスティック」を丁寧に歌った。70年代アイドル・ポップスを今、最高の形で表現できるシンガーの1人だ。

太田裕美

森口博子

白と黒のヒョウ柄ジャケットでパワフルに登場したのは大橋純子。代表曲「シンプル・ラブ」を圧倒的な声量で歌い切ると、次の曲紹介へ。「私は、この歌の女性に憧れています。とってもいい女です」と語り、「ペイパー・ムーン」へ。今剛のギタープレイ、ホーンセクションのパワーに負けない圧巻の歌唱力で会場を酔わせた。

大橋純子

ソウル風にアレンジされた原田真二のヒット曲「タイム・トラベル」を歌うのはSING LIKE TALKINGの佐藤竹善。ブルーとパープルの照明が幻想的な空間を描き出すと、この後はアレンジャー亀田誠治のプロデュース・ワーク・コーナー。今年7月にリリースされた松本隆トリビュート・アルバム『風街に連れてって!』からのナンバーが、カヴァーしたアーティストの歌唱で立て続けに披露される。

佐藤竹善(SING LIKE TALKING)

まずはこの日の出演が大きな注目を集めたB‘zがステージ中央から登場。「こんばんは!」の一声で会場の空気を一変させ、桑名正博の79年の大ヒット「セクシャル・バイオレットNo.1」を。黒の上下で決めたタイトなファッションでセクシーにのけぞり歌う稲葉浩志、エモーショナルなギター・プレイで沸かせる松本孝弘に会場も熱狂の渦に。興奮醒めやらぬ中「ダンディなこの方をお呼びしたいと思います」という亀田の紹介で、クレイジーケンバンドの横山剣が「ルビーの指環」を披露。「松本隆さん、50周年、いいネ!」とおなじみのセリフを決める。大人のいい男が続いたステージでは、一転、期待の若手川崎鷹也が、大瀧詠一の名曲「君は天然色」を。ゴージャスなアレンジにも負けない、堂々たる歌いっぷりは、松本の詞が新しい世代にも受け継がれていることを実感させる。

横山 剣

亀田誠治、川崎鷹也

大掛かりなセットチェンジが行われ、C-C-Bがステージに立った。45周年の『風街レジェンド』は直前に痛恨の欠席となったが、そのリベンジを果たした形。ドラムの笠浩二とギターの米川英之の2名のみだが、松本と筒美京平のゴールデン・コンビが大事に育てたバンドである。大ヒット「Romanticが止まらない」と「Lucky Chanceをもう一度」を立て続けに演奏、笠のドラムを叩きながらのハイトーン・ヴォーカルも健在。客席からはペンライトを振るファンの姿も。

C-C-B

中盤の折り返し地点に、賑やかに現れたのはイモ欽トリオ。当時と同じ学生服姿だが「メンバーのうち2人が還暦超えてます」「ここがトイレタイムですから、今のうちに」と笑いをとり、カラオケで「ハイスクールララバイ」を。当時の振り付けそのままに、細野晴臣作曲によるテクノポップの音色も懐かしい。

イモ欽トリオ

ラフなパンツルックで元気よく飛び出してきたのは、「総立ちの久美子」こと山下久美子。重低音を強調したアレンジの「赤道小町ドキッ」を飛び跳ねながらキュートに歌うと、80年代アイドルの代表格・早見優の「誘惑光線・クラッ!」へバトンを渡す。当時の輝きをそのまま残したミニスカート姿で観客を魅了した。

山下久美子

早見 優

今年4月に行われた「筒美京平トリビュート・コンサート」でも印象的だった武藤彩未が、飯島真理が歌ったアニメ『スプーンおばさん』のテーマ「夢色のスプーン」を。そして、『風街レジェンド』でも大きな反響を巻き起こした安田成美が純白の衣装で現れ、「風の谷のナウシカ」を歌うと、間奏で大きな拍手が沸く。さらに新星・鈴木瑛美子が薬師丸ひろ子の名曲「Woman “Wの悲劇”より」を美しいハイトーンと伸びのある歌声で披露。彼女の母である広田恵子は、松本が87年に監督した映画『微熱少年』のヒロインという偶然も重なり、風街ワールドの縁の不思議さを思わせる。天井にはライトで星の演出が施され、幻想的な世界に。続いて松田聖子の「瞳はダイアモンド」を。

武藤彩未

安田成美

鈴木瑛美子

水色のシャツにリボンタイ、黒のスカートというリセエンヌ風の衣装で現れた斉藤由貴は「初戀」を歌い終えると大きく深呼吸。そして、松本へ「あなたの作り上げた作品世界の船に乗って、こんなにたくさんの人が、ここまで来てしまいました。ありがとうございます」とメッセージを送り、「卒業」をしっとりと歌った。

斉藤由貴

ステージには再び太田裕美の姿が。松本と大瀧詠一が作り上げた名曲「さらばシベリア鉄道」を熱唱すると、「松本さんがお元気なうちに、こんなに素敵な大イベントができました。元気で長生きしてください!」と熱いエールを送り、本編が終了した。

太田裕美

大きな手拍子が武道館いっぱいに響き渡り、アンコールはお待ちかね、はっぴいえんどの登場だ。鈴木茂、細野晴臣、そして今夜の主役・松本隆がステージ左手より登場。さらにキーボード井上鑑とアコースティック・ギターの吉川忠英、もう1人のサポート・キーボードに鈴木慶一が参加し、鈴木茂の「こんばんは、はっぴいえんどです」の挨拶に、会場は大興奮。「花いちもんめ」を鈴木茂のヴォーカルに乗せ、松本の独特のフィル・インを持つドラムが武道館に響き渡り、スクリーンにはドラムを叩く松本を背中越しに映した映像が流される。続いて再び呼び込まれた曽我部恵一のヴォーカルで松本の作詞デビュー作「12月の雨の日」を。さらに鈴木茂がベース、細野がアコギに持ち替えて、畢生の名曲「風をあつめて」を披露。新型コロナウィルスの影響もあり、声を出して歌うことができない観客も、細野の渋いヴォーカルと、松本の奏でるリズムに身を委ねながら身体を揺すっている。歌い終えると細野が「ちょっと間違えちゃった」と照れ臭そうに話し、まるで楽屋トークのようにワイワイと語りあっていた。客出しのBGMには大瀧詠一の「スピーチ・バルーン」。まさに長い船旅を、空から大瀧が見守っていたかのようなエンディングで、50年の歴史を持つバンドの絆を感じさせつつ、この日のステージは幕を下ろした。

はっぴいえんど

鈴木慶一

曽我部恵一

はっぴいえんど

  • 取材・文

    馬飼野元宏

  • 撮影

    CYANDO

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