宇都宮 隆『ソロ30周年記念 LIVE UTSU BAR TOUR 2023』セミファイナル公演をレポ

ライブレポート | 2023.06.14 12:00

ソロ30周年記念 LIVE UTSU BAR TOUR 2023 「それゆけ歌酔曲!!」ギア-レイワ5
2023年6月9日(金) EX THEATER ROPPONGI

前夜の激しい雨が、夏への加速度を上げようとしていた六本木の街に、吹き抜ける風も心地よい夕暮れを届けてくれた。LIVE UTSU BARに出かけるには頃合いだ。本番が始まる前にエネルギーを削がれてしまうほどに暑くはなく、かと言って高鳴る気持ちが冷めてしまうほどに涼しいわけでもない。つまりは、大人の夜遊び気分を満喫できる状況が整っていたということ。期間限定で“開店”するこのバーは、今回も緩やかに心地よい夜のひとときを過ごさせてくれた。
今年9年目を迎えたLIVE UTSU BARは、4月にこの日と同じEX TEATER ROPPONGIからスタートし、宮城、広島、福岡、北海道、愛知、大阪の各地をまわって、この日と翌日がファイナル公演。もしかしたら、地方でその魅力に触れて、六本木まで繰り出してきたお客さんもいたかもしれない。なにせ、決してお客さんの気持ちを置き去りにしない行き届いたバーのごとく、ステージ上のメンバーの振る舞いは無邪気でありながら折り目正しい上に、セットリストの選曲は気が利いているし、アレンジに抜かりはないからだ。ちなみに、冒頭のMCでも説明された通り、このLIVE UTSU BARでは歌謡曲と洋楽ヒッツをマッシュアップさせて聴かせるのだが、そのベースには今や世界的なトレンドとも言っていい80’sフレイバーが溢れていて、だから目の前の演奏を楽しみながら、曲によっては個人的な懐かしさに浸ってしまうかもしれないというトラップも用意されている。
ステージの上手奥に設られたバー・カウンターで談笑していたnishi-ken(Key)、松尾和博(Gt)、そして野村義男(Ba)というバンドのメンバーが定位置につき、最後にボーカルのUTSUが登場して、さあ“開店”だ。今回のバンド名は“能ある鷹”なのだそうだが、その名から連想するような爪を光らせることはなく、ただただ颯爽と、歌謡曲と洋楽ヒッツのマッシュアップ、その名も“歌酔曲”を披露していく。そのツボを心得た演奏ぶりが、能ある鷹なのに爪は隠さないという洒落なのか。ツボを心得ているのは客席も同様で、“光る応援タンバリン”を手に、会場の温度を着実に引き上げていく。楽しみ方をわかっている者同士の親密な空気が会場を満たして、そこはたちまち気の置けない仲間が集う馴染みの店のようになってしまった。

だから、その場の空気は心地よく緩いのだけれど、その緩さを程よく引き締め、そしてさらに熱量を高めるのが、言うまでもないカラフルな“歌酔曲”の数々だ。例えば1曲目「ロックンロール・ウィドウ」。目まぐるしい感じのイントロはグレン・フライの「ヒート・イズ・オン」で、それは自動的にこの曲が主題歌だった映画「ビバリーヒルズ・コップ」で主演を務めたエディ・マーフィの人を喰った笑い方を連想させたが、UTSUが♪モテたいためのロックンローラー♪と歌い始めると、“80年代前半、ちょっとトッポい感じのお姐さんが一人でカラオケバーに飲みに来てリクエストするのが決まってこの曲だったなあ”なんて感慨にとらわれたりもして、巡る思いは尽きない。と言って、そんなノスタルジック・モードに入り込むばかりでなく、例えば「夜明けのスキャット」と「ロクサーヌ」のマッシュアップに驚かされて、というのも「夜明けのスキャット」は「サウンド・オブ・サイレンス」と酷似してるとしばしば言われる曲だから、ということは「サウンド・オブ・サイレンス」も「ロクサーヌ」としっくり収まるということだな、なんてマニアックなことも考えたり。さらには、歌唱後にUTSUが「立った!とうとう立った!」と叫んだnishi-kenの「バス・ストップ」の熱唱や、野村がポール・マッカートニーばりにベースを弾きながら歌う、ずうとるびの「みかん色の恋」、そしてこれまでのLIVE UTSU BARで取り上げた曲たちからピックアップした15分を超える超ロング・メドレーと、ホントに盛り沢山のメニューだ。

もっとも、会場のお客さんたちにしてみると、この日の最大のニュースは、UTSUが自ら発表した、ソロ30周年記念アルバムのリリース決定だったかもしれないが、TM NETWORKの再始動まで含め、「僕の体はどうなるの?」と他人事のように話しながら、UTSUのボーカルはあくまでスマートに、そしてクールに、カラフルに彩られた名曲たちの魅力をあらためて再認識させてくれた。特に、本編最後に披露されたYMOのヒット曲「君に、胸キュン。」と彼のボーカルの相性の良さは印象的で、それはUTSUのボーカルの個性というものをあらためて意識させられた場面でもあった。
アンコールの最後は♪思い出とは真昼の星座/永遠にそっと輝く♪と歌う「優しい奇跡」。それぞれの胸に残る思い出が、“歌酔曲”に導かれてそっと輝いた先に、新しい六本木の思い出がまたひとつ胸に刻まれた一夜だった。

SET LIST

( )内はマッシュアップ楽曲

01. ロックンロール・ウィドウ / 山口百恵 (The Heat Is On / Glenn Frey)
02. 夜明けのスキャット / 由紀さおり (Roxanne / The Police)
03. 桃色吐息 / 高橋真梨子 (Papa Don’t Preach / Madonna)
04. いつでも夢を / 橋幸夫 吉永小百合 (Lyin’ Eyes / Eagles)
05. バス・ストップ / 平浩二 (Can't Help Falling in Love / Elvis Presley)
06. みかん色の恋 / ずうとるび (China Grove / The Doobie Brothers)
07. 夏をあきらめて / 研ナオコ (Smoke on the Water / Deep Purple)
08. 家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム) / 竹内まりあ (Jet / Paul McCartney & Wings)
09. 亜麻色の髪の乙女 / ヴィレッジ・シンガーズ (Centerfold / J. Geils Band)
10. UTSU BARメドレー
ミュージックフェアのテーマ/ナオミの夢(ヘドバとダビデ)/スローモーション(中森明菜)/恋人も濡れる街角(中村雅俊)/木枯らしに抱かれて(小泉今日子)/そして、神戸(内山田洋とクール・ファイブ)/夢先案内人(山口百恵)/あなただけを(あおい輝彦)/ミュージックフェアのテーマ~ゲゲゲの鬼太郎/京都慕情(渚ゆう子)/太陽がくれた季節(青い三角定規)/蒼いうさぎ(酒井法子)/てぃーんずぶるーす(原田真二)/四つのお願い(ちあきなおみ)/長崎は今日も雨だった(内山田洋とクール・ファイブ)/星のフラメンコ(西郷輝彦)/抱きしめてTONIGHT(田原俊彦)/ジンギスカン/赤頭ちゃん御用心(レイジー)/世界中の誰よりきっと(中山美穂&WANDS) /TOKIO(沢田研二)/ミュージックフェアのテーマ
11. 君に、胸キュン。 / YMO (China Girl / David Bowie)

ENCORE
01. アフリカへ行きたい / 荒井由実 (気絶するほど悩ましい / Char)
02. 優しい奇跡 / 野村義男・宇都宮隆

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