兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第156回[2024年2月後半・サニーデイ、ヤバT×氣志團、松尾スズキ×京都芸大の学生たち、などの8本を観ました]編

コラム | 2024.03.07 17:00

イラスト:河井克夫

音楽などのライター兵庫慎司が、ほぼ生・たまに配信で観た、基本的に音楽・時々それ以外のライブ、すべてのレポを書く連載の156回目、2024年2月後半編です。
今回は半月で8本、そのうちの4本を23・24・25日の3日間で観て、その4本のうちの2本がアナログフィッシュ、という回になりました。あ、最後の2月29日はDJなので、「観た」は変か。「行った」もしくは「そこにいた」ですね。

2月16日(金)19:00 DENIMS、Helsinki Lambda Club @ 下北沢シャングリラ

DENIMSが東名阪のシャングリラで行う対バンツアーの1本目=東京編で、ゲストはHelsinki Lambda Club。超満員。長きにわたって親交のある先輩後輩だそうで、お互いのお互いに対する敬意や愛やライバル心なんかのすべてがいい方向に作用していた、そんな、とても素敵な時間だった。
ヘルシンキ、今日ここで一緒にやれることの喜びを(特にベースの稲葉航大が)全身で表しながら、10曲をプレイ。「Chandler Bing」「触れてみた」「略奪のシーズン」といった、最新アルバム『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』の曲が特にうれしい。「ユアンと踊れ」や「ロックンロール・プランクスター」なんかのライブ定番曲も、もちろん楽しいし。
そしてDENIMSは、2月7日に配信されたばかりの新曲「たがまま」で動画撮影をOKにしたり、「Helsinki Lambda Clubに向けて歌いたいと思います」と、「ロックンロール・プランクスター」をカバーしてオーディエンスを喜ばせたり、後半の「Goodbye Boredom」の間奏で「あ、これも動画撮っていいよ、盛り上がってるから」とまた撮影OKにしたりして、オーディエンスと自分たちを、ひたすら楽しく心地よく幸福にしていくステージを体験させてくれた。
アンコールではヘルシンキが乱入。ここでも撮影OKになりました。

2月18日(日)17:00 サニーデイ・サービス @ Zepp Shinjuku/YouTube

2023年2月10日のLINE CUBE SHIBUYAを皮切りに(その時のこの連載はこちら兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第126回[2023年2月中盤・サニーデイ、バンプ、マイヘア、レッチリなどの6本を観ました]編)、ぴったり1年間続いた全43本のツアーの最終日。YouTubeでの無料生配信あり。もうずっとピークの瞬間、みたいな、超充実のすばらしい内容。初日は、尺が2時間半弱だった、と僕は書いているが、この日もほぼ同じ、全28曲でぴったり2時間半だった。
ただ、終演後にスタッフが教えてくれたのだが、この最終日はギュッとタイトにして2時間半にしたそうだ。それまでのツアー各地では、3時間半くらいやる日もあったという。1本前の1月21日梅田クラブクアトロのセットリストを調べたら、確かに、36曲やっていた。
このツアー自体、前半・後半・最終章の東名阪、と3部構成みたいな形で続いていたので、その間にセットリストもだいぶ変わったのだと思う。にしても、毎週末必ず、日本のどこかに行ってライブをやる、というのが常態化した1年というのは、大変だけど幸せだっただろうなあ、と思う。でもやっぱり大変か。終わったらものすごい虚脱感に襲われそう。
なお、途中のMCで、このツアーで全国各地で食べたラーメンの第1位を発表せよ、と曽我部に言われた田中貴が「じゃあ」って挙げたのは、その直前に話題に出していた、山形のとりもつラーメンでした。そんなラーメンがあるのか。初めてきいた。

2月20日(火)19:00 ヤバイTシャツ屋さん、氣志團 @ Zepp Haneda

初のベストアルバムを携えてのヤバイTシャツ屋さんの47都道府県対バンツアーの東京編、Zepp Haneda2デイズの2日目、ゲストは氣志團(1日目はゴールデンボンバー)。
中盤で「One Night Carnival」をやる→曲が終わると早乙女光が「こんな曲オワコンだ」などとケチをつけて怒った團長(綾小路翔)が光のリーゼントをつかんで巴投げを食らわす→泣きながら光が走り去り、他のメンバーたちは光の肩を持つ→で、反省した團長が「心を入れ替えました」みたいなことを言って、「新曲です」と、対バンもしくは誰かの曲とマッシュアップした「One Night Carnival」をやって、大ウケする──というのが、イベント出演時や対バン時における氣志團の、ここ数年のお約束になっている。
この日も、ヤバTの「あつまれ! パーティーピーポー」とマッシュアップした「あつまれ! One Night Carnival」を披露したが、その前に、しばたありぼぼの結婚を祝って、「結婚闘魂行進曲『マブダチ』」を「ありぼぼおめでとうバージョン」に変えてプレゼント、というサプライズもあった。
それに応えて、ヤバイTシャツ屋さんは「癒着☆Night Carnival」をお返ししたのだが。こやまたくや曰く──氣志團の何がすごいって、バックステージに貼ってあるセットリストが大嘘であることだ。サプライズ曲は隠されていて、サウンドチェックでも一切やらない。あの人たち、俺ら3人を驚かせるためだけにそこまでしてくれる。俺らはそんなん無理──とのこと。というわけで、「癒着☆Night Carnival」のエンディングで、こやまたくや、「僕たちは、リハーサルでこの曲を何回もやりました!」と絶叫していた。あっはっは。
なお、ヤバイTシャツ屋さん、今年で結成10周年だそうで、こやまたくや、「俺ら、氣志團呼べたんやなあ」とか「氣志團呼べるようなバンドになったんやなあ」みたいなことを、何度も言っていて、感慨深そうだった。で、アンコールを終えても、ツアーやりすぎて体力がついていて、まだまだ体力有り余ってるから、と、急遽もう1曲追加していた。ライブをやればやるほど元気になる人たち。

2月23日(金・祝)17:00 アナログフィッシュ @ 新代田FEVER

アナログフィッシュの毎年この時期恒例の企画、京都磔磔と新代田FEVERでライブをやる『KYOTO TO TOKYO』の東京編。
今年は、東京はメンバー3人にサポート・ギターRyo Hamamotoが加わったいつもの編成で、現在のアナログフィッシュを見せるライブ。京都の方は、『世界は幻』と『日曜日の夜みたいだ』をインディ・リリースしてから20周年、ということで、それぞれを再現するライブを東京では行ったが、関西ではやっていなかったので、その2作をまとめて今回行う、という趣向だった。なお、その2枚は後に1枚にまとめられて、『アナログフィッシュ』というタイトルでメジャー・リリースされている。
というわけで、東京編は頭3曲が「静物」「U.S.O」「Saturday Night Sky」で始まるなど、近年の曲が中心のセットリスト。という中で、ちょっと懐かしい「SHOWがはじまるよ」を5曲目にやったのは、5日前の2月18日(日)に行われた『オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム』でオードリーが漫才をする時、出囃子でこの曲が使われたからだと思う。
もともとこの曲、2013年にオードリーが単独ライブをやる時に、テーマ曲として依頼を受けたアナログフィッシュが書き下ろし、それ以降も2019年のオードリーの日本武道館などでも使われてきた、という経緯がある。
あと、昨年配信リリースした現時点での最新曲「おもいつくかぎりのすべて」と、2月28日に配信される新曲「Broken Lovers」も演奏された。
で、アンコールは、3人で「車窓(バスの窓から)」と初期の「BGM」を演奏しておしまい、のはずだったが、Ryo Hamamotoが花束を持って現れ、健太郎に手渡す。健太郎、この日が45回目の誕生日だったのだ。下岡晃がうながして、場内みんなで「ハッピー・バースデイ」の合唱。で、下岡晃、「これはもう健太郎さん、歌って終わるしかないだろう」健太郎「うん。ほんとはこんな予定じゃなかったんですけど、45歳になりましたんで、20年前の曲を歌おうと思います!」と、「スピード」が追加されたのだった。

2月24日(土)17:30 真心ブラザーズ @ EX THEATER ROPPONGI

『グレートCK Jr.ツアー』ファイナルの東京公演。このツアー名は、サポートのベース:グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)とドラム:サンコンJr.(ウルフルズ)の名前の間に、桜井秀俊=CherryとYO-KING=KINGの頭文字をはさんだもの。
1月30日の広島公演を観た時にも書いたが(こちら兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第154回[2024年1月後半・あら恋やビリー・ジョエルや真心@広島、などを観ました]編)、これ、ニューアルバム『TODAY』をリリースしてのツアーだが、そのアルバムから演奏したのは「一触即発」「君がすべてだったよ」くらい。他は、普段なかなかライブでやらないレア曲だらけのセットリストだった。「ふっきれてる」とか。「丘の上」とか。
15曲目の「スピード」からの後半の盛り上げゾーンは、おなじみの曲の連発になったが……いや、「スピード」以降もあったわ、レア曲。『KING OF ROCK』から「スピード」と「愛」をやるのは定番だけど、「アーカイビズム」は、ちょっとめずらしいし。その「アーカイビズム」の次に「Let’s 感動」をやったし(広島の時にきいた「SHIBUYA-AX以来」はこの曲です)。
なんにせよ、普段から頻繁に真心のライブを観ている身からすると、とてもうれしいセットリストだった。最終日だけあって、演奏もすばらしかったし。
で、アンコールは「拝啓、ジョン・レノン」と「明日はどっちだ!」だったのだが。アンコールって、そのツアーのグッズを着て出て来るじゃないですか、宣伝のために。サポートのグレートとサンコンはTシャツ、YO-KINGと桜井はTシャツの上にジャケットも着て出て来たのだが、「拝啓、ジョン・レノン」の後半のギターソロの時、YO-KING、そのジャケットを脱いで床に広げ、跪いて丁寧にたたみ、それをグッズのトートバッグにしまう、というムーブを見せた。
ステージ前方に出てソロを弾いていたが、オーディエンスの視線で異変に気がついた桜井、曲を終えて「私の見せ場なんですけど!」。YO-KING「いや、思いついちゃって、やったらウケるかなあと思って」。大笑いでした、確かに。

2月25日(日)14:00 松尾スズキ×京都芸術大学の学生『命、ギガ長スzzz』 @ 京都芸術劇場春秋座

2023年から京都芸術大学舞台芸術研究センターの教授になった松尾スズキが、「松尾スズキ・リアルワークプロジェクト」として、同大学の全学科の学生を対象に、募集・選抜を行ってチームを作り、出演は全員学生たち、制作スタッフにも学生たちが参加し、読売文学賞受賞作『命、ギガ長ス』を上演する──という、1年がかりのプロジェクトのゴール=一回きりの公演がこれ。
京都芸術劇場春秋座、というのは、大学の中にあるめったやたらと立派な劇場で、普段はプロの演劇や落語などの公演も行われている。この公演は、京都市民もしくは京都市内の学校に通う学生は入場無料、それ以外は500円だった。
松尾さんにとっても初めての、1年かけたトライアル。観たい。でも当然、仕事にはならない。どうしよう。そうだ、14時開演だから、同じ日の夜、京都で何かライブないかな……あ、アナログフィッシュ「KYOTO TO TOKYO」磔磔の日じゃん! 東京とは曲目も編成も違うし。というわけで、京都まで行く理由がふたつになったので、足を運びました。
この芝居の出演者たち、サポートのひとり(4年生)を除いて全員同大学の1年生と2年生で、演技を専攻している学生もいるが、映画制作やデザインの専攻の学生もいる。つまり、完全な素人もいるわけなんだから、こっちもそういう気持ちで観よう。500円なんだし。
と、座席についた時点では思っていたのだが、観ているうちにそのことを忘れた。普段松尾スズキ作・演出の演劇を観ている時と同じ気持ちで、いつもどおり楽しんで観た。『命、ギガ長ス』、初演も再演も観たが、それらの時と同じように。
ということに、観終わった時に気がついて、とてもびっくりしたのだった。なぜそんなふうに観れたのか。完全な素人とアマチュアの集合体なのに、役者それぞれが「松尾スズキの演劇」ならではの表情や身体表現になっていたからだ。
すごくない? だって素人よ? もちろん彼ら彼女らの努力も、それはもう大変なものがあったのだろうが、それ以上に、20歳前後の素人たちと組んで、ちゃんと自分の芝居を作れてしまう松尾スズキの演出力に、なんだかもう、脅威すら覚えたのだった。

2月25日(日)17:30 アナログフィッシュ @ 京都磔磔/Streaming+

というわけで、京都芸術劇場春秋座を出て、叡山電鉄と京阪電車を乗り継いで、開演10分前に京都磔磔に到着、アナログフィッシュを観た。2月23日のところにも書いたように、『世界は幻』と『日曜日の夜みたいだ』リリースから20周年ライブの関西編。生+アーカイブで配信もあり。
20年前と同じく、サポート・ギターのRyo Hamamotoがいない3人編成で、『アナログフィッシュ』収録の13曲を全曲、曲順どおりに演奏。その後「Hello」「BGM」「スピード」をやって本編を締め、アンコールで「SHOWがはじまるよ」と、未発表の新曲「三葉虫」を追加した。さらにそのあと、去年の『KYOTO TO TOKYO』京都編では楽屋から配信した、来場者からの質問に答えるコーナーを、今年はステージ上で行った。
昔はあたりまえに観ていた「3人だけのアナログフィッシュ」、とてもおもしろかった。「あ、そうだそうだ、昔はこんな感じだった」と思い出したり、逆にRyo Hamamotoがいかに凄腕かがよくわかったりして。演奏する側は大変だったと思うが(特にボーカル&ギターの下岡晃が)。
あと、曲間に男性の太い声で「アナログフィッシュー!」という歓声が飛ぶのが、関西での彼らのライブではおなじみになっていることを、初めて知りました。東京では、ないのです、そういう習慣。

2月29日(木)18:00 奥野真哉、グレートマエカワ(DJ) @ 元代々木町・押競満寿

2023年11月29日に初めて開催された、奥野真哉とグレートマエカワのDJイベント『オクノマサヒコのDJ DINNERS』(こちら兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第149回[2023年11月後半・フラカンと宮本とGLIM SPANKYなどを観ました]編)の、二回目がこの日……と書いて、気がついた。これ、29日縛りでやっているんですね。会場の「押競満寿」が、魯肉飯のお店だからか。
今回も18:00スタートで、奥野さんとグレートさんのふたりが交代しながら、アナログの7インチで、主に1980年代の洋邦のヒット曲を次々とかけまくる。たとえば奥野さんだと、ボン・ジョヴィ、ブライアン・アダムス、チャーリー・セクストン、ノーランズ、といった具合。自分も力いっぱいその世代なので、まあ楽しい。
前回同様うつみようこさんがドリンクカウンターで働いていて、前回同様うじきつよし御大が遊びに来られていて、それ以外にもYO-KINGなど、ミュージシャンが何人か、のぞきに来たりする。
お店は全部で30席あるかないかくらいで、お客さんはみんな飲み食いやおしゃべりをしながら、音楽を楽しんでいる。という場の様子を見ていて、思い出した。これ、昔グレートが「こういうのやりたい」って言ってたやつじゃん、と。
当時、グレートはいつもDJとなると、サザンの「勝手にシンドバッド」をかけて「今何時!」をコールさせたり、坂本九の「レットキス」をかけてお客さんたちとジェンカで練り歩いたり、というような、サービス精神全開のパフォーマンスでフロアを盛り上げていたのだが、「そういうのじゃないのもやりたい」と言うのだ。一緒に飲んでいた時に。
バーみたいな店で、踊れる踊れないにこだわらずに自分が好きな音楽をかけて、みんな飲んだりしゃべったりしていて、音楽を聴いてるんだか聴いてないんだからわからないような、そんな、自分もお客さんもリラックスしたイベントもやりたい。
なので、「そうか。じゃあやろうよ」と、当時曽我部恵一が下北沢にオープンしたばかりだったカフェ兼中古レコード店、CCC(CITY COUNTRY CITY)を借りて、当時はまだ再結成前だったサニーデイ・サービスの田中貴も誘って、「Barグレート」というイベントを始めた。が、グレートさん、ここでもつい「レットキス」でジェンカをやったりして、結局いつもと変わらないことになっていた。
『Barグレート』の一回目をやったのが、確か2008年の夏ぐらい。それから15年以上経っている。何か、しみじみしました。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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