──「はんぶんこ」はその専門校時代に作った曲なんですよね。
専門学校2年生のときに書きました。卒業してからどうするか、自問自答している時でもあり、自分のことと、かけがえのない人がいるよっていうこと、その両面を書きたいと思って作りました。
──“はんぶんこ”という言葉はどこから?
もともと“はんぶんこ”という言葉が好きだったんですよ。シェアじゃなくて、“はんぶんこ”。かわいいし、温かいし、いいなって。どんなに美味しい料理屋さんに行っても、ひとりだったら、食べ終わったら、それで終わりじゃないですか。でも2人で行って、それぞれが選んだものを分け合って食べたら、「美味しかったね」「そうだね」「また来ようか」って、食べ終わってからも話して思い出せるし、美味しかった体験が倍になったりするじゃないですか。
──確かに“はんぶんこ”って、共有するってことですもんね。
少しあげるだけでも“はんぶんこ”だし、この言葉の前提には自分以外の誰かと分け合う行為があるわけで、しかも自分が心を許してる人だからこそ、“はんぶんこ”が成立すると思うんですよ。サビの歌詞で“僕の半分を君にあげるよ”と歌ってますけど、それくらい大切なものをあげてもいい、もらってもいいという感覚がこの言葉にはあると思っていたので、そこも歌にしました。食べ物だけじゃなくて、映画を一緒にみるとか、同じ体験を分かち合うことも“はんぶんこ”に通じると思うし、恋愛関係の男女だけじゃなくて、親兄弟、友達でも成り立つんですよ。最初は純粋にラブソングのつもりで書いていたんですけど、ライブで歌うにつれて、「親、兄弟、友達にもあてはまりますよね」って言われて、受け取り方によって、いろんな景色が浮かぶ歌なんだなと気付かされました。自分にとって大切な人を思い浮かべてもらえたら、うれしいですよね。
──曲作りをする上で大切にしていることはありますか?
僕の歌の根本には人とのつながり、輪みたいなものがあると思っています。ただし、“めっちゃがんばれ!”みたいなストレートな歌は書けないんですよ。背中を押すのではなくて、寄り添うような歌を作れたらと思っています。もうひとつ、こだわっているのは、歌詞に英語を入れないということですね。せいぜいカタカナぐらい。英語圏で育った訳でもないし、発音も自信がないので、変に英語を入れるのも違うかなと。その分、日本語のいいところを突き詰めようと思っています。
──「はんぶんこ」を作ったことは須澤さんにとっても、大きなきっかけになりましたか?
僕は専門学校でバンドを組んでいたんですが、そのバンドで「はんぶんこ」でオーディションに出たことがデビューのきっかけになったので、その意味でも大きかったですね。この歌と二人三脚でここまでやってきたというくらい、大切な歌です。メジャー・デビューというスタート地点まで僕を運んでくれた自分の恩人みたいな存在でもあって。だから絶対にこの歌を1枚目にしたかったんですよ。それがこの歌への恩返し、みたいな気持ちもあります。
──2曲目の「夢の続き」は挫折したことがあるからこそ、夢を持つことのかけがえのなさも伝わってくる歌なのではないかと感じました。野球の夢を諦めたことも含めて、描いた歌なのですか?
“グランドを駆け抜ける少年”というフレーズもあるし、野球をやってた時の気持ちも入っています。2番のAメロで“彼女は元気かな”って歌っていて、高校の時に好きだった相手に言えなかった気持ちも入っていますし、小さいころから今までの自分のことを線でたどった歌ですね。挫折も含めて全部つながって今になって、未来までつながっていくんだろうなって。子どものころの記憶で言うと、大人は何でも知っていて、背中が大きくて、頼れる存在だったじゃないですか? 子どもよりもできることもたくさんあって、自由で輝いた存在だと思っていたんですが、いざ自分が26歳の大人になった時に、子どもから憧れられる存在になっているかと言ったら、そうではなくて。この曲を作った時の自分は曲を作りながらバイトをしていて、同じ道を通って、同じ仕事をして、同じ電車に乗って帰ってくるという同じことの繰り返しの日々だったんですよ。その日がその日であった意味ってなんだろう、このままではダメだろうという思いから作った曲ですね。1本違う道を通ったら、もしかしたら知らない喫茶店があって、入ってみたら、人生を変えるような出会いがあるんじゃないか、日々の中で見落としているものがあるんじゃないかって、自分を奮い立たせるべく書いた記憶があります。
──“新しい冒険に行こう”というフレーズはそうした思いを象徴する言葉なんですね。
そうです。きっとあの時の僕と同じように思ってる大人も多いと思うんですよ。大人になんかなりたくないと歌っているのではなくて、子どもの頃からの夢をたどっていく役割を担っていきたいという気持ちを描きました。30代、40代、その先も夢の続きですし、今の自分がしっかり繋いでいかなきゃいけないという気持ちも込めています。
──3曲目の「君は誰かのヒーロー」は特別な存在ではなくて、誰もがなりうるヒーローが描かれていて、温かみのある歌ですね。
僕なりの応援歌ですね。世間のおとうさんだって、子どもたちにとってはヒーローだと思うし。小さいころからヒーロー物、戦隊物が大好きだったこともあり、誰かが悲鳴を上げた時に、飛んでいって、助けられる存在にはなれないけれど、せめて一番身近な人のヒーローであれたら、その身近な人も誰かのヒーローで、その誰かもどこかの誰かのヒーローで、そうやって繋がっていって、世界中がヒーローの輪っかで繋がっていけばいいなって。このシングルに収録されているのは似たところのある4曲で、どれも人との繋がりを意識して作っていますね。
──4曲めの「友だち」は実際の友達のことを歌った歌ですか?
高校の時、一緒に組んだ相方のことを歌ってます。
──「カマキリみたいな声」と言った人ですね(笑)。
「カマキリ」は半分冗談だと思うんですが(笑)とてもいいヤツなんですよ。今は先生をしていて、家庭があって、先日、子どもが生まれたばかりでして。3年生の時にそいつと僕の他に、ピアノのうまいヤツが入って3人のユニットになったんですけど、そのピアノのヤツも先日結婚して、今お嫁さんのお腹に赤ちゃんがいて、来年の春に生まれるらしく。専門学校のときオーディションに出る前にも1個バンドを組んでるんですけど、そのバンドに誘ってくれたギタリストも家族があって、子どもがいて、小学校中学校時代に仲良くて遊んでた友達からも「結婚した」というメールが来て、僕のまわりで、人生の転機が集中していて、家庭ができたり、子どもができたりして、幸せを見つけているのが、自分のことのようにうれしいし、こっちが「メジャーデビューするよ」って電話をすると、みんな、自分のことのように喜んでくれまして。道は分かれているんですが、自分が選ばなかった自分のようなところもあるし、1人ではたどり着けなかった今に、一緒に関わってくれた友達の存在をどうしても歌にしたくて、作りました。
──デビュー・シングル、どんな作品になりましたか?
新しい出発の第一歩ですね。この作品でスタートを切るんだと思って細部までこだわって作ることができて、今の自分の全部を入れられました。この1枚が自分の名刺替わりというか、須澤紀信の歌はこういうものなんだって、わかってもらえる作品になったんじゃないかと思っています。
──これから先、どんな活動をしていきたいですか?
広く浅くではなくて、長く大切にしてくれる人に1人でも多く、僕の歌を届けられたらと思っています。僕の歌を聴いた人それぞれの人生に少しでも寄り添っていけたら、こんなうれしいことはないですよね。僕の歌を大切にしてくれる人にひとりでも多く出会える活動をしていけたらと思っています。夢はいつの日にか、日本で一番大きいドームでライブをすること。アンコールで出ていった時、花道を通って、センターステージに大の字に寝そべって、この瞬間は僕のものだってことを全身で感じたい。その瞬間を目指してやってます。
──ライブも控えています。どんなステージにしたいですか?
基本的には弾き語りでライブをしていますが、少しずつステージに上がる人数も増えていくかもしれません。とは言え、大切にしていることは一緒ですね。僕が何よりも大切にしているのはひとりひとりと向き合って、歌を届けることなんですよ。聴いた人それぞれが体験してきた景色が浮かぶようなライブ、ひとりひとりに違うものを届けられるライブをやれたらと思っています。
──曲のストックはたくさんあるとのことですが、アルバムはいつ頃になりそうですか?
曲はすでにいっぱいありますし、今も時間がある時には曲作りをしています。しっかりインプットして、自分の中で消化して、いい曲をたくさん作っていきたいです。アルバムに向けて着々と準備はしていまして、来年春くらいに出せたらと思っています。こうやって発言した以上、有言実行でがんばります(笑)。
■「はんぶんこ」/ 須澤紀信(Music Video)